とらぶる☆とらんすふぁ

第三話


          6

「ゴメン、広瀬さん待った!? 妹にお使いを頼まれちゃってさ……って、
 広瀬さん。何してるの?」

 ゼイゼイと息を荒げるお兄ちゃんが部屋に入ってきたのは、
私が遥さんの身体に憑依し、
私の身体をお兄ちゃんのベッドの下に隠し終わった直後であった。
その所為で私こと遥さんは、ベッドの下に頭を入れて、
お尻をお兄ちゃんの方に向けている体制を見られてしまったのだ。
遥さんがミニスカートなんかを履いてきた所為で、
おもいっきりパンツを見せてしまったかもしれない。
私は慌ててベッドの下から這い出て、
服装の乱れを直しながら申し開きをする。

「あ、あの……ゴメンなさい、春樹さん……。
 ちょっと暇だったので、春樹さんの部屋を眺めていたら、
 急に探究心が芽生えてしまい、こんな所まで……。
 本当に、ゴメンなさい!」

 私は遥さんのマネをしながらお兄ちゃんにペコペコ謝った。
遥さんとはまだ2回しか会ったことがなかったので、
こんな感じで良いのか? と思い、ちょっと冷汗をかいた。

「ははは、別にそこまで謝らなくてもいいよ。
 オレはてっきりエロ本の隠し場所でも探してるんじゃないかと思ってね。
 ちょっと焦ったよ」

 お兄ちゃんはそう言ってハハハと笑う。
私もお兄ちゃんに合わせてフフフと上品に笑った。
上品に笑った方が遥さんっぽいからだ。
お兄ちゃんはエッチな本が遥さんにバレなくて安堵しているようだけど、
私は知っている。
お兄ちゃんのエッチな本の隠し場所は勉強机の一番下の引き出しの中だ。
するとお兄ちゃんは急に辺りをキョロキョロと見渡し、
不思議そうな声でこう言った。

「ところで亜紀がどこに行ったか知らないか?
 オレにお使いを頼んでおきながら、帰ってきたらどこにもいないんだ」

ギクッ。
そんな文字が私の心臓から飛び出す幻影が見えた。
そういえばそうだ。
私を隠してしまったら、お使いを頼んでも買ってきた物を受け取れないではないか。
くぅ、そこまでは考えてなかった……。
どうしよう。
とりあえず何か言わなければ怪しまれてしまう。

「そ、そういえば、春樹さんに頼み忘れた物があったらしく、
 私にお留守番を頼んで出て行きました」

「あ、そうだったのか。まったくしょうがないヤツだなぁ」

 そう言って私とお兄ちゃんは声を合わせて笑った。
ふぅ、なんとか誤魔化すことができたかな?
でも、これ以上嘘を重ねると、もう誤魔化しきれなくなるかもしれない。
これからの発言には十分気をつけねば……。
私はそう心に誓いながら笑顔で誤魔化し続けた。

 やっと二人きりになることができた私とお兄ちゃん。
始めの内は「春樹さんは普段、どんな音楽を聴くんですか?」などと聞き、
お兄ちゃんと遥さんがいつもどんな会話をしているのかを探りながら、楽しく談笑する。
しかし、それはあくまでフェイク。
本当の目的はお兄ちゃんとエッチなことをすること。
私は「この部屋、暑いですね」などと言いながら、
上着を脱ぎ、次第に薄着になっていった。
時々、シャツの胸元をひっぱって、胸が見えるようにしたり、
ミニスカートなのに体育座りをして、お兄ちゃんにパンツが見えるようにした。
するとお兄ちゃんは顔を赤くして、あからさまに目を逸らしたりする。
私は思わず笑ってしまいそうになった。
いつも私には威張っているお兄ちゃんでも、
こんなかわいい顔をすることもあるのだということに気付いて、嬉しくなったのだ。
私はもっとかわいいお兄ちゃんが見たくなったので、
パンツに手をかけて、チラッと一瞬だけアソコを見せてあげた。
するとお兄ちゃんはビックリしたようで、
一瞬、目を大きく見開いてビクッと震えると、すぐに目を逸らした。
はうぅ、かぁいいよぉ〜。
テイクアウト! テイクアウトぉ!!
私は某同人ゲームに登場するキャラのような、
鼻の下を伸ばしきった顔をして、至福の時を愉しんだ。
そして「春樹さん、どうかしましたか?」とわざとらしく聞いてみると、
お兄ちゃんは「い、いや、なんでもない……」と顔を真っ赤にして言った。
強がっているお兄ちゃんもかぁいいよぉ〜。
あれ?
心なしか、さっきよりも前傾姿勢になってませんか?
お兄ちゃん。
これはもう本人に聞いてみるしかないでしょう。

「春樹さん、さっきよりも前傾姿勢になってますが、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫。大丈夫……」

「顔も赤いし、どこか具合が悪いんじゃ……」

 私が近寄ってお兄ちゃんに触れようとすると、
お兄ちゃんはまたビクッと震えて、私から離れようとする。

「いや、本当に大丈夫だから、心配しないで……」

お兄ちゃんはそう笑顔で言っているが、両手は股間にあてられていた。

「心配しないでと言われましても……。
 お腹? お腹に両手をあてているということはお腹が痛いんですか?
 私、こう見えても少しは医学を心得てるんですよ?
 ちょっと見せてくれませんか?」

「そ、そんな! ちょ、ちょっと……」

 私はお兄ちゃんの両手を払って、ズボンの上から股間を触った。
これがお兄ちゃんのおちんちん……。
お兄ちゃんのおちんちんは昔、一緒にお風呂に入っていた時よりも大きくなっていて、
カチカチに硬く、とっても温かかった。

「まぁ、こんなに硬く腫れてしまって……。
 今、春樹さんが感じている感情は、精神疾患の一種です。
 治し方は私が知っています。私に任せてください」

 私は言葉の重複が2回あるのにも関わらずに、
そう臆面もなく言い放ち、お兄ちゃんのズボンのファスナーを下ろして、
中から大きくなったおちんちんを取り出した。
初めて生で見たおちんちんは赤くて、テカテカ光っていて、ちょっとグロテスクだった。
でも、これが大好きなお兄ちゃんのおちんちんなのだから、
お兄ちゃん同様、好きにならなければならない。
私はお兄ちゃんのおちんちんが好きである証に、
お兄ちゃんのおちんちんにキスをする。
チュと触れるだけのライトなキス。
するとお兄ちゃんのおちんちんはビクビクッと痙攣するように反応した。
上目遣いでお兄ちゃんの表情を見ると、どうやら気持ち良さそうにしている。
私は嬉しくなって、もっとキスをすると、
その度にお兄ちゃんのおちんちんは震えて反応した。
おちんちんも見慣れてくるとかわいく思えてくる。
私は「よし」と決意してから、お兄ちゃんのエッチな本でやっていた
『フェラチオ』というのをやってみることにした。
確か、おちんちんを口の中に入れて、前後運動をするヤツだ。
私はお兄ちゃんの部屋で読んだエッチな本の内容を思い出しながら、
お兄ちゃんのおちんちんを口に含み、頭を動かして前後運動をする。
ジュプ、ジュプというエッチな水音が部屋に響き、
「私は今、お兄ちゃんとエッチしてるんだ」という実感が湧いてくる。

「ねぇ、春樹さん。気持ちいい?」

「ひ、広瀬さん、やめ……」

 なんということだろう。
どうやらお兄ちゃんは私のフェラチオが御気に召さないようだ。
やり方が悪かったのかもしれない。
確かあのエッチな本で男の人が「もっと舌を使え」と言っていた。
それと「カリ首のあたりを重点的に舐めろ」とも言っていた。
カリ首というのはどこのことだろう?
きっと、男の人が一番感じる場所に違いない。
私はお兄ちゃんの表情を見ながら、
一番感じている場所を探しながらおちんちんを舐めた。
おちんちんのお腹の部分や、頭の部分、タマタマが入っている袋まで丹念に舐め尽くす。
そしておちんちんの頭と棒の付け根である段差の部分を舐めると、
お兄ちゃんの顔が歪んだ。

「うっ、そこは……」

 どうやらこの段差になっている場所がカリ首のようだ。
確かにおちんちんの頭と胴を繋いでいる部分にあるので、
『カリ首』と呼ぶのは相応しいのかもしれない。
カリ首の場所がわかった私は、舌を使ってカリ首を重点的に舐める。
お兄ちゃんは「うっ、ううっ!」とちょっと苦しそうに呻きながら、ビクビク反応した。
効いてる、効いてる。
私はお兄ちゃんにもっと気持ちよくなってもらおうと思って、
再びお兄ちゃんのおちんちんを口に含み、舌でカリ首を刺激しながら、
時々吸うようにしてしごいた。
するとお兄ちゃんは益々、声が大きくなり、吐息の回数が増えてくる。
もう少し、もう少しであのエッチな本の男の人みたいに『射精』してくれる筈。
私はそんなことを思いながら、前後運動のスピードを上げるが、
お兄ちゃんはなかなか『射精』してくれない。
私が「おかしいなぁ」と思って更にスピードを上げると、
段々アゴが疲れてきた。
もう5分以上、同じ姿勢で同じ動作をしていたのだから当然である。
でも、大好きなお兄ちゃんが『射精』してくれるまでは止められない。
それが私のジャスティス。
私はそんな思いを胸に秘めながら、前後運動を続ける。
するとアゴが疲れた所為なのか、前歯が少しお兄ちゃんのカリ首に当たってしまった。
お兄ちゃんが「うぉ!」という声をあげたかと思うと、
突然、私の口の中にドロリとした液体が現れた。
お兄ちゃんが『射精』したんだ。
そう気付いたのは、お兄ちゃんの精液が私の喉の奥を突き、ゴホゴホと咳き込んだ後だった。
これがお兄ちゃんの精液?
想像していたのとはだいぶ違う。
なんか生暖かいし、変な匂いがするし……。
それでも私はお兄ちゃんの精液を吐き出すことができず、
苦しかったけど全部飲み込んでしまった。
お兄ちゃんのおちんちんは私の口から外れ、咳き込んでいる私の顔に射精し続ける。
遥さんはメガネをかけていたので、目に精液が入る心配はなかったけど、
メガネのレンズが精液まみれになってしまい、
眼前の風景が真っ白になって、何も見えなくなってしまった。

「ひ、広瀬さん! 大丈夫!?」

 ゴホゴホ咳き込んでいる私を心配してくれたのか、
お兄ちゃんが私の背中を擦ってくれて、2、3枚のティッシュを取り、
メガネと顔についた精液もキレイに拭き取ってくれた。
やっぱりお兄ちゃんはやさしい。
そんな風にお兄ちゃんのやさしさを、
精液まみれのティッシュ越しに感じていると、
急にお兄ちゃんの顔が険しくなった。

「広瀬さん、なんでこんなことをしたんですか!」

「だ、だって私達は恋人同士なんですよ?
 恋人同士でしたら、こういうことをするのが普通じゃないですか?
 それなのに、なんで……」

「普通の恋人同士だったらな。
 でもオレ達は、こういうことはしないという約束だったじゃないか!」

「え!?」

 約束? 約束ってなんだろう?
私が遥さんに憑依しても、遥さんの記憶は引き継がないから、
遥さんとお兄ちゃんが交わした約束なんてわからないよ。

「忘れたのか? オレ達が付き合い始める時に約束したじゃないか。
 オレには好きな人がいるから、セックスはできない、って!
 君はそれでも良いから付き合いたいって言うから付き合ったのに……」

「え? ええ!? その……好きな人って!?」

 話が違う! そんな話は一度も聞いたことがない!
 お兄ちゃんが好きな人って、遥さんじゃないの!?
 だったら本当は誰のことが好きなの!?

「なんだ、本当に忘れてしまったのか?
 亜紀だよ。オレは妹の亜紀が好きだって、あの時言ったじゃないか!
 オレは何回も確認したよな? こんなシスコン男でも良いのか? って。
 その時、広瀬さんはそれでも良いって言ったじゃないか!」

 え? え!? ええ!? 嘘!? 私!?
 だったら何? 私達って、両思いだったの!?
 兄妹同士で両思い!?
 そんなのぶっちゃけ、ありえないよぉ!

「お兄ちゃん……そんな……。うそ……」

 私は驚きと嬉しさを足して割る2のような表情でお兄ちゃんを見つめ、
不意にそんな言葉を漏らしてしまった。

「お、お兄ちゃん?」

 しまった! お兄ちゃんに気付かれた!
 お兄ちゃんは私が他人に憑依できることを知っている。
勘の良いお兄ちゃんだったら、今の失言だけで推理できる筈だ。
ど、どうしよう……。
私が遥さんの身体を勝手に使って、お兄ちゃんにエッチなことをしたのだから、
怒られるに決まってる。
怒られるだけならまだしも、こんな卑怯なことをしたのだから、
私のことを嫌いになってしまうかもしれない……。
やだ。絶対にいやだ。
折角お兄ちゃんが私のことを好きだと言ってくれたのに、
今から嫌われてしまうなんて!

そ、そうだ。謝ろう。
私は悪いことをしてしまったのだから、素直に謝ろう。
許してもらえないかもしれないけど、それが筋というものだ。
それに今謝れば、情状酌量の余地があるかもしれない。

「ゴメンなさい……お兄ちゃん……。
私は遥さんじゃないの……。私は……私は……」

 亜紀です。
その一言がなかなか言えなかった。
その名前を言ってしまったら、本当に嫌われてしまうかもしれないから……。
どっちみち、ここまで言ったらわかってしまうというのに……。
私は本当に意気地のない弱虫だ。
私がいつまでもモジモジしていると、
お兄ちゃんは目を大きく見開いてから、真実を言い当てる。

「お、お前……ひょっとして、亜紀か?」

 終わった……。後は追って沙汰を待とう……。

「うん、ゴメンなさい。こんなことしちゃって……」

 くぅ……、なんで私にはこんな能力があるのだろう……。
こんな能力さえなければ、『遥さん憑依計画』なんてバカなことしなかったのに……。
私は今ほどこの能力があることを悔やんだことはない。

「バカ、なんでこんなこと……」

「だって、だって……。お兄ちゃんが遥さんと付き合っちゃったから……。
私、ずっと、ずっとお兄ちゃんのこと好きだったのに……。
お兄ちゃんを、遥さんに取られちゃって……、悲しくて、悔しくて……。
だから、悪いことだっていうのはわかっていたけど、
こうすることしか、思いつかなくて……」

 私は思っていたことを全てお兄ちゃんに言った。
ずっとお兄ちゃんのことが好きだったこと。
お兄ちゃんと遥さんが付き合ってしまって悲しかったこと。
遥さんに嫉妬していたこと……。
私は確かに悪いことをしてしまったが、
それにはちゃんと理由があるということをお兄ちゃんにだけは知って貰いたかったのだ。
するとお兄ちゃんはやさしい顔に戻って、私の頭を撫でた。
え? 何? 怒らないの?
私はキョトンとした表情でお兄ちゃんを見つめた。

「バカだな、亜紀は……。そんなことをしなくても、オレにはお前しかいないよ……。
そうだな……。広瀬さんのことをちゃんと話さなかったオレもバカだ。
オレもずっと前からお前のことが好きだったけど、言い出す勇気がなくて……」

「お兄ちゃん……」

「でも、今なら言えるよ。亜紀。オレはお前のことが好きだ。愛している」

 お兄ちゃんはそう言って私の身体を抱きしめた。
お兄ちゃんの温もりが伝わってくる。
私は嬉しくて瞳から涙が溢れた。

「お兄ちゃん!! 私も! 私も大好きだよっ」

 私もお兄ちゃんに抱きついた。
これで私達は正式に結ばれることになったのだ。
こんなに嬉しいことはない。
ただ一つ、腑に落ちない点があるとすれば、
それは今、私の身体は遥さんで、本当の身体はベッドの下だということだ……。
文章:ATF

(2005年12月25日)


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