兄妹同棲 番外編

雪音たんちのバレンタイン


今日は2月14日。
バレンタイン。

女の子が好きな人にチョコレートを贈る日。
今日だけは好きな人の前で、素直になれる日…。

私――近藤雪音(こんどうゆきね)――は、
そんなことを考えながら、お兄ちゃん――近藤悠司(こんどうゆうじ)――
と二人暮しをしているアパートの部屋で、
チョコレートを作っていた。

もちろん、お兄ちゃんにプレゼントする為にだ。

まずは買ってきた板チョコを、包丁で細かく刻みボウルに入れる。
次は鍋に生クリームを入れ火にかけ沸騰させ、
沸騰した生クリームをさっき刻んだチョコのボウルに入れ、
泡立て器で手早く混ぜ合わせる。
混ぜ終わりチョコがクリーム状になったら、
ラム酒を入れて、また混ぜ合わせる。
それが終わったらボウルを涼しいところに置き、
絞れるくらいの固さになるまで冷やす。
丁度良い固さになったら、絞り袋に入れ、
オーブンペーパーを敷いたまな板の上に、
太さが均一な棒状になるようにチョコを絞り出し、
冷蔵庫に30分くらい入れて冷やす。

これでちょっと固めになった『ガナッシュ』
(生クリームとチョコレートをあわせて作る、
チョコレート作りの基本のクリーム)の出来上がりだ。
棒状のガナッシュを包丁で均等の大きさに切り、
手のひらでお団子を丸めるように、コロコロとガナッシュを丸める。
次にコーティング用のチョコを溶かし、
溶かしたチョコを丸めたガナッシュの表面につけて、
バットに入れたココアパウダーの中で転がし、
まんべんなくココアをまぶしたら、
小さくてかわいいトリュフチョコの完成である。

私はたくさん作ったトリュフを、
ハート型の箱に入れ、
かわいい柄の包装紙とリボンでラッピングして、
見栄えをよくした。
うん。
これならばデパートとかで売っている
ブランドチョコにも負けない見栄えだ。

「やっと…、やっと完成したよぉ〜」

私は歓喜の声をあげて、
完成したチョコの包みを抱きしめた。

苦節3時間。
かかった費用は約2,000円。
まさに渾身の出来である。
今年はちょっと大人っぽく、
ラム酒の入ったトリュフなのだ。
手作り&トリュフ。
これならばきっとお兄ちゃんも喜んでくれるハズ。

私はちょっと上機嫌になって、
鼻歌を歌いながら後片付けを始めようとしたが、
たくさん作りすぎて余ったトリュフを見て、
まだ味見をしていないことに気が付いた。
途中、味見をしながら作ったが、
完成品を食べるのはこれが始めてだ。
もしも、完成品が美味しくなかったらお兄ちゃんに渡すことができない。

私はドキドキしながら、小さくてかわいいトリュフを一つつまみ、
口の中に含むと、ゆっくりと舌の上で溶かして味わった。
すると口の中いっぱいに甘味が広がり、ちょっぴり幸せな気持ちになった。
作った自分で言うのもなんだけど、確かに美味しい。
後からくるラム酒の風味が特にいい。
お酒好きのお兄ちゃんにはピッタリなチョコだ。

「ひっく…。あれ? ひっく…」

急にシャックリが止まらなくなった。
頬や瞼も火照ってくるような…?
どうしちゃったんだろう?
私の身体…。
だんだん…、気持ち…よく…なって…いく…よ?
私はふわふわと心地よい眠気に耐え、
余力を振り絞って、余ったトリュフを冷蔵庫に入れると、
テレビの電源を切ったようにプツンと意識が途絶えた。


■          ■          ■


「ただいまー」

会社から帰ってきたオレは、
義妹の雪音と一緒に住んでいるアパートのドアを開けて、
帰宅の挨拶をした。

「あっ、おにいちゃんだぁ…ひっくっ…。おかえりなさぁ〜い…ひっくっ」

すると真っ赤な顔をした雪音がオレを出迎えにきてくれた。
しかし、いつもとどこか様子がおかしい。
いつもはこんなに目がトロンとしていないハズだ。
それにさっきから『ひっく、ひっくっ』とシャックリをしている。
オレが出かけている間、雪音の身になにかあったのだろうか?

「ど、どうしたんだ? お前、顔が真っ赤だぞ? 熱でもあるのか?」

「んにゅ? そんなことないよ…ひっくっ…。
私はいつだって元気だよぉ…ひっくっ」

「そうか? そのわりにはさっきから『ひっく、ひっくっ』言ってるな?」

「うん、そうなんだよ…ひっく。なんでかわからないんだけど、
さっきからシャックリが止まらないんだよぉ…ひっくっ。
それより、お兄ちゃん…。今日は何の日か知ってる?」

雪音はそう言って話題を変えると、
オレの右腕に抱きつき、甘えるような声で尋ねてきた。
ピッタリとオレの腕にくっついてくるので、
二の腕辺りに雪音のぷっくりとしてやや小さめな胸の感触がある。
温かくてやわらかい。
正直、オレはドキッとした。

「お、おいっ、雪音…。あまりくっつくなよ…」

「兄妹なんだから…、別に気にすることないよ」

「いや、オレ達の場合は本当の兄妹じゃないし…」

「そんなことより、質問に答えてよ…ひっくっ」

上目遣いでオレを叱る雪音。
ほっぺたをぷーっと膨らませて怒る雪音を、
素で『かわいい』と思ってしまったオレは、兄失格だろうか?
いや、そんなことはどうでもいい。
それよりも早く答えないと、雪音の機嫌がもっと悪くなりそうだ。
仕方がない…。
質問に答えてやろう。

「バレンタインだろ?」

「うん、そう。バレンタイン」

そう言うと雪音はニッコリと笑った。

「それがどうかしたのか?」

「うん。だからね…。私…チョコを作ったの…ひっくっ」

「ひょっとして、今年もオレにか?」

「うん。お兄ちゃん以外にあげる人いないし…」

「そうか…。毎年悪いな…」

「ううん。気にしないで…。私が好きでやってることだから…」

「で、どこにあるんだ? そのチョコは?」

「あるよ。ここに…ひっくっ」

「あるって…。それらしき物は見当たらないが…」

「正確には『この部屋のどこかに』あるよ…」

「え?」

「チョコ、隠してるの…。お兄ちゃんに探してもらいたいから…」

「さ、探すって…。なんでわざわざそんなことを?」

「いつもみたいに普通に手渡しするよりも、宝探しみたいで面白いかなって…」

「あのな〜」

オレはちょっと赤面して苦笑した。
この歳になって宝探しだなんて恥ずかしすぎる…。
テレビのバラエティー番組じゃないんだから、
普通に渡してほしかった…。

「心配しないで。そんなに難しくはないから…ひっくっ。
あっ、冷蔵庫は残り物があるから、そこのチョコは除外ね。
あとゲームを面白くする為に、お兄ちゃんがチョコを見つけられたら
私が今日一日、お兄ちゃんの言うことを聞いてあげて、
お兄ちゃんが見つけられなかったら、
今日一日私の言うことを聞いてもらうというルールがあるから…」

「ゲッ、そんなルールもあるのかよ?」

「イヤ?」

目に涙を潤ませてそうオレに聞いてくる雪音。
そんな顔をされたら断れないじゃないか…。

「まぁ、雪音が折角作ってくれたチョコだからな…。
お礼代わりに付き合ってやるよ…」

オレはそう言いながらしぶしぶ部屋中を調べた。
タンスの中や、押し入れの中。本棚。お風呂場。寝室。
台所。流し場。戸棚。食器棚。
コタツの中はチョコが溶けるから入れないだろうと
思いながら調べたが、案の定無かった。

「まさか、ここには隠さないよなぁ?」

あと調べてない場所はトイレだけだったので、
トイレのドアノブを掴んだのだが、
雪音に「そんな所に隠さないよ!」と怒られてしまった。
うむ、ごもっともである。
『トイレにチョコを隠す』は『トイレにカレーを隠す』並にやってはならないことのひとつだ。
それが生チョコならば尚更だ。
何故ならば、もしそのチョコが何かの拍子で便器に落ちてしまったら、
次にトイレに入った人が勘違いをして、不快な思いをしてしまう。
トイレで他人が排泄したモノを見るほどイヤなものはないからな。
まぁ、そんなことは万が一にも起きないだろうが…。

「ダメだ。みつからん!」

オレはサジを投げるように敗北宣言をした。
雪音は難しくないと言っていたが、
どこが難しくないのか?
まったく見つからないではないか。
雪音め…。
いつもはのほほんとしているクセに、
こういう時になると本気を出しやがって…。
なかなか侮れないな…。

「ホントに全部探した?」

「ああ、そんなに広い部屋じゃないからな…。
それとも大掃除をする覚悟で、
部屋の中をひっくり返さないと見つからない場所にあるのか?」

「ううん。そこまでしなくても見つかるよ…ひっくっ」

「ヒントくれ! ヒント!」

「ヒント? んーと…、部屋の中に隠れてると言うよりも、
部屋の中にあると言う方が正確かな?」

「部屋の中にある?」

「うん。まだ探してない場所があるんだよ…」

「いや、そんなハズはない。全部探したよ…。
探したハズなのに…。う〜む…」

オレはうんうん唸りながら動物園のクマのように、
部屋の中をウロウロして探したが見つからなかった。

「降参?」

「……」

「今日一日、私の言うことを聞いてもらうよ?」

「ああ…、構わん。降参だ。答えを教えてくれ」

「うん、いいよ。実はね…」




そう言うと雪音は、スカートの裾を両手で掴み、おもむろにたくし上げた。
するとオレの眼前にピンク色のショーツと、ハート型の包みが現れる。
どうやら、あのハート型の包みがチョコのようだ。

「ほらっ、ここだよ…」

なるほど。
『部屋の中にある』というのはそういうことだったのか。
確かに雪音もこの『部屋の中にある』モノの一部だ。
そんなことに気付かなかったなんて…。
オレもまだまだ修行が足りんな…。
って、違う!
答えがわかって納得している場合じゃない!
妹のハレンチな行動を止めさせねば!

「ばっ、バカっ! なんて所に隠してるんだよ!」

「あはははっ! 驚いた? ひっくっ」

「ああ、驚いたよ…。それより、もういいから前を隠せ。
目のやり場に困る…」

「ダメだよ、お兄ちゃん。
今日一日、言うこと聞くのはお兄ちゃんなんだからね?」


「だ、だからと言って…、スカートをたくし上げる必要は…」

「大ありだよ。スカートをたくし上げないとチョコを受け取ってもらえないもん…」


「そんなのお前が手渡しすれば…」

「それじゃあ、チョコをここに隠した意味がないよ…」

「つまり…、オレがそのチョコを?」

「うん! 受け取って!」

雪音はそう笑顔で言った。
兄が妹のパンツからチョコを取り出せと?
馬鹿げている…。
正気じゃない。
そんなことをしたら雪音の秘部を触ってしまうではないか。
今日の雪音はどこかおかしい。
一体、どうしてしまったのだろうか?

「早くしないと、チョコが寒がって、パンツの中に潜ってしまいますよ?」

そう言いながらちょっぴりだけ外に出ていたチョコの箱を、
パンツの中へ押し込む雪音。
これ以上チョコをパンツの中に入れられたら、
パンツに触れないと取り出せなくなってしまう。
この状態でオレにチョコを取り出せと言うのか?
こ、こいつは悪魔か!?
悪魔のみがなせる所業だぞ、これは!

「OKOK! わかったからそれ以上チョコをパンツの中に入れないでください!」

「じゃあ、はい。お願いします」

雪音はそうニッコリと微笑んでスカートをたくし上げる。
まさか、妹のパンツをこんなに真近で見ることになるなんて…。
オレだって男だ。
いくら妹だと言っても、女の子の下着姿を見れば性的興奮をする。
さっきから下半身は大変なことになっているのだ。
狭いズボンの中で窮屈そうにしているオレの息子が、
外へ出ようと一生懸命背伸びをしている。
でも、雪音はオレの義妹。
義妹に手を出してはいけないのだ。

「あっ…、あんっ!」

オレはビックリして、30センチぐらい後ろへ飛び退け、
自分の頭部を両手で守った。
別に爆発するわけでもないのに…。

「こ、こらっ! 変な声を出すんじゃない!」

「だって…、お兄ちゃんの息が…ふとももにかかって…、
くすぐったいんだもん…」

「よし、わかった。オレも出来るだけ息をかけないようにするから、
お前も変な声を出さないように注意しろよ? いいな?」

「うん、努力する…」

雪音はコクリと頷いて返事をする。
しかし、なんでこんなに怖がってるんだ? オレは?
別に童貞ってワケでもないのに…。
他の女性ならこんなに怖がらないのに…。
なんでだ?
雪音だからか?
義妹だからか?
オレはそんなことを考えながら、
できるだけ雪音の肌には触らないように、
恐る恐るパンツのゴム部分をつまんだ。
するとチョコはするするっとパンツの中へ落ちていってしまう。
支えになっていたパンツのゴムを伸ばしてしまったからだ。

「オウッ、シット!」

オレは何故か外人のような声をあげて悔しがる。
これでチョコは完全にパンツの中に埋没してしまった。
もうこうなったら、パンツの中に手を入れて、
チョコをサルベージするしかない。
なんてこった…。
妹のパンツの中に手を突っ込めと言うのか?
そんなことをしたら雪音の秘部に触れてしまうかもしれない…。
雪音はオレの妹だから…。
大切な妹だから…。
そんなことは絶対にできない…。
第一、雪音の秘部に触れてしまったら、
オレの欲望を抑えることができるかどうか…。
そっちの方が問題だ。

「あの、お兄ちゃん…。まだかな?
私、ずっと立ってるから…、
疲れてきちゃったよ…。
取り出しにくかったら…、
その…、触ってもいいんだよ?」

「いや、しかしそれは…」

「でも…、触らないと取りにくいと思うよ?」

「……」

「いいんだよ? 私…、お兄ちゃんにだったら…触られても…平気…だから…」

雪音もああ言ってることだし、
ちょっとぐらいは触れてもいいんじゃないのか?
いや、しかし…。
もし、雪音の秘部に触れてしまったら、
オレの欲望を抑えることができないかもしれない…。
オレはそう心の中で自問自答する。

「ふわぁ…。ずっとこんな格好してたから、疲れちゃった…。
ちょっと座るね?」

雪音はあくびをしながらそう言って、
近くにあったペンギンのぬいぐるみに
よりかかるようにして体育座りで座る。
オレは「ああ、すまんな…」と一声かけてから、
また自問自答を再開し、
それから結論に至るのに約20分を要した。

「やっぱりダメだ! オレにはできない!」

それがオレの答えだった。
いくら雪音との約束、ゲームのルールとは言え、
雪音の秘部を触るような危険(?)なことはできない。
オレは雪音のことを大切な妹だと思っているから、
このままの関係でいたいから、
このような結論を出した。
雪音には酷く罵られるかもしれない。
しかし、いくらお前に罵られても、
オレはお前が望むようなことは出来ないんだ。
オレの気持ちをわかってくれ。
雪音…。

「ゴメンな、雪音…。オレ、お前のことが嫌いで触れないんじゃないんだよ!
オレはお前のことを大切に思ってるから…だから…」

「すぅ…すぅ…」

「え?」

オレが一生懸命弁解していると、雪音の方から寝息が聞こえてきた。
振り向いて雪音を見ると案の定。
雪音はペンギンのぬいぐるみを抱いて、
すやすやと気持ちよさそうに眠っていた。

「た、助かった…」

オレは全身の力が抜け、へなへなとその場に崩れ落ちる。
オレに無理難題を押し付ける小悪魔は眠り、オレは解放された。
しかし、何故雪音はこんなことをしてしまったのだろうか?
いつもはもっと控えめで、恥ずかしがりやなのに、
今日に限ってはこんな大胆なことを…。

その答えは冷蔵庫にあった。
雪音を布団に寝かした後、
まだ夕食を食べていないことに思い出し、
なにか作ろうと冷蔵庫を開けたときに偶然みつけた、
たくさん作りすぎて余ったトリュフとラム酒のビン。
オレは一口食べてみて確信した。
雪音はこれを食べて『よっぱらってしまった』のだと。

実は、雪音はものすごくお酒に弱い。
極少量の酒でも酔ってしまう。
その上、『酒乱』という厄介な能力まで備わっているのだ。
そういえばまだ親父達が生きている頃、
ひなまつりの時、親父が雪音に甘酒をすすめたことがあった。
あの時も雪音は乱れてしまい、
「部屋が暑い」と言ってオレ達の前で
服を脱いでしまったことがあった。
あれ以来、我が家では『雪音にお酒を飲ませてはいけない』という
暗黙のルールが出来たのだが、
当の本人にはまったく自覚がないので、
こういう事件を度々起こしてしまう。

明日にでもちゃんと言って聞かさねば…。
外でこんなことをやられたら、大変なことになってしまう。
でも、面と向かって今日あったことを話すのは、
ちょっと恥ずかしいなぁ…。
いくら兄妹とは言え、『性』にも関わることだからな…。
雪音をキズつけてしまうかもしれない。
そうだ。
手紙を書こう。
チョコのお礼と一緒にお酒に対する注意を促す文章を書くのだ。
でも、オレは文才がないからな…。
上手く書けるだろうか?
オレは電話の近くにあったメモ帖を一枚ちぎって、
雪音宛の手紙を書いた。
できるだけ雪音をキズつけないような文章を心がけて…。

まぁ…、こんなもんでいいだろう。
雪音はオレよりも早く起きるから、
きっと朝起きた時に読んでくれる。
はぁ…。
雪音の将来が心配だ…。
オレはそんなことを思い悩みながら、
寝床についた。


■          ■          ■


私が目を覚ますと、私は何故か寝床にいた。
外はもう真っ暗で、時計を見ると深夜の2時半。

確か私は、お兄ちゃんにチョコを作っていたハズなのに…。
思い出そうとしても頭がズキズキと痛くて思い出せない。
そして、下半身に違和感を感じる。
何か固い物がパンツの中にあるような…。
私は自分の股間部に手を伸ばすと、
何故かお兄ちゃんに渡すハズだったチョコの箱が、
パンツの中に入っていた。

「な、なんで〜!?」

私は驚いて深夜にも関わらず大声を出してしまった。
なんでパンツの中にお兄ちゃんのチョコが?
こんな恥ずかしいところに、お兄ちゃんの為に作った
大切なチョコがあるなんて…。
私は『信じられない』といった面持ちで、
素早くチョコの箱をパンツの中から取り出し、
リボンと包装紙を剥がした。
私のパンツの中に入っていたモノをお兄ちゃんにあげることはできない。
私はその穢わらしいリボンと包装紙をごみ箱に捨て、
箱の中のチョコを確かめた。
……。
やっぱり溶けてしまっている。
こんな出来損ないを贈ることはできない。
私は悲しくなって少し泣いてしまったが、
すぐにたくさん作りすぎて余ったトリュフがあることを思い出した。
それをこの箱に詰め替えて、新しい包装紙でラッピングすれば、
お兄ちゃんにあげることができる。
私は急いで台所へ行き、冷蔵庫のドアを開けた。

「この辺りに入れておいたと思ったんだけど…」

ない。
確か、ここに入れたハズなのに。
私は何度も冷蔵庫の中を見回したが、
チョコレートらしき物は見当たらなかった。
肩を落として寝室に引き返す途中、
私は食卓として利用しているコタツの上に、
チョコを入れておいた容器と、
一枚の手紙が置いてあるのを見つけた。
その手紙にはこう書いてあった。


『雪音へ。
冷蔵庫にあったチョコをいただきました。
とても美味しかったです。
ありがとう。
でも、お酒の取り扱いには
十分注意しましょう。
                  悠司より 』


「お酒の取り扱いには十分注意しましょう?」

私には何のことだかわからなかったが、
お兄ちゃんは私が作ったチョコを
食べてくれたようだ。
しかも、『とても美味しかった。ありがとう』と言ってくれている。
嬉しい。
たとえ手渡しができなかったとしても、
そのチョコを自分の股間部にしまってしまうという
恥ずかしいことをしていたとしても、
私にはその言葉だけで救われた気がした。

私は寝室に戻って、寝ているお兄ちゃん布団に潜り込み、
そっとほっぺにキスをする。

「いつも迷惑ばかりかけてゴメンね。
あと、こんな私だけど、いつも助けてくれてありがとう…。
お兄ちゃん…。大好きだよ…」

今日は2月14日。
バレンタイン。

女の子が好きな人にチョコレートを贈る日。
今日だけは好きな人の前で、素直になれる日…。

END

---- あとがき ---------------------------------------------
ふろーらいとの同人ゲーム、『兄妹同棲』のSSを書きました。
でも『兄妹同棲』のゲームと、このSSは特に関連がないので、
未プレイの方が読んでも大丈夫だと思います。(たぶん)
これで興味を持っていただけたら幸いです。
『兄妹同棲 第二章』も鋭意製作中。がんばります。

イラスト:弐肆
文章:ATF

(2004年2月14日)


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