とらぶる☆とらんすふぁ 第二話


● 2 ●

「ただいまー」

お兄ちゃんよりも先に学校から帰って来ていた私は、着替えを済ませ、リビングでのんびりテレビを観ていた時にその声を聞いた。私は一刻も早くお兄ちゃんに会いたくて、「おかえりなさーい♪」と陽気な声を上げながら、小走りして玄関へ出迎えてみると、そこにはお兄ちゃんと綺麗な女の人がいた。

「おう、ただいま。コイツはオレの妹の亜紀。二つ年下で、今は県内の高校に通っている」

そうお兄ちゃんが私の顔を一瞥して帰宅の挨拶をすると、すぐにその女の人の方を振り向いて、私の紹介をする。すると彼女は少し微笑みながら私に向かってこう言った。

「こんにちは。私の名前は広瀬遥(ひろせはるか)。お兄さんと付き合わせてもらっています。これからもよろしくお願いしますね」

私は耳を疑った。この人は「お兄さんと付き合わせてもらっています」と言ったの? 付き合わせてもらっている……え!? つまりお兄ちゃんの彼女って言うこと!? うそ? なんでお兄ちゃんに彼女がいるの!? お兄ちゃんには私がいるのに!? 私は少し混乱しながら広瀬遥と名乗る女性を見た。身長は一六八センチぐらい。細身ではあるが出るところは出ている。髪は黒髪ロング。眼鏡をかけていて少しおっとりしている。やさしそうなお姉さんという感じだろうか? これなの? お兄ちゃんはこういう人が好みなの? 私とは正反対な人じゃない!? などと思っていると、お兄ちゃんは困った顔をしてこう言った。

「ほら、広瀬さんが挨拶してるんだから亜紀も挨拶しろよ。ゴメンな。挨拶も出来ない妹で……」

「ううん。いきなり押しかけてきちゃった私が悪いんだし。ゴメンなさいね。驚いちゃったでしょ?」

「あっ、いいえ。こちらこそゴメンなさい。兄が女の人を連れてきたのは初めてだったもので……」

「まぁ、春樹さんが今まで女性と付き合ったことが無いというのは本当だったんですね」

「こら、亜紀。余計なこと言うなよな」

そう言ってお兄ちゃんと遥さんは笑った。まるで仲の良いカップルのように……って、まるでじゃない! まさに仲の良いカップルなのだ! 私はだんだんイライラしてきた。

「こんな所で立ち話もなんだから、とりあえずオレの部屋へ行こう」

「はい。それでは、お邪魔しますね」

そう言ってお兄ちゃんは遥さんを家に招き入れ、二階にあるお兄ちゃんの部屋へ行った。付き合い始めたばかりの男女が自室で二人きり? このままではマズイ! 私は直感的にそう思った。付き合い始めたばかりの若い男女が二人きりですることは一つしかない。私は急いで二人分の紅茶を入れ、キッチンの戸棚にあったカステラを持って、お兄ちゃんの部屋へ様子を見に行った。まぁ、『様子を見に行く』などと言うのは当然建前で、邪魔をする気が満々なのだが……。するとドアの向こうから二人の声が聞こえてきた。

「あんっ、春樹さんの……すごく大きい……」

「そうかな? これぐらいが普通だと思うけど」

「こんなに大きいの……たぶん、入らないよ……」

「大丈夫。オレに任せて……」

お、遅かったかっ!? この会話の流れから言って、中の様子はだいたい想像出来る。お兄ちゃんの初めては、私がもらう予定だったのに!
私はハンカチが破れるくらい強く噛み締めて悔しがっていると、二人の会話はおかしくなってゆく。

「うお、コイツ結構手強いな……」

「春樹さん、頑張って!」

ん? 手強いって、どういうこと? 私は気になって、こっそり部屋の中を覗くと、二人はテレビゲームをしていた。どうやら二人で共闘するタイプのゲームで、自機が持っているボールを出来るだけ巨大にして、敵が守るゲートに入れるゲームらしい。私はおもいっきりコケてしまった。大学生にもなって、二人でゲームするなよ……。
結局、その日は何も起きず、遥さんは帰って行った。

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