とらぶる☆とらんすふぁ 第十一話


● 8 ●

「な、な、な、なんで〜!?」

私は『私』を見ながら大声をあげた。だって私は今、遥さんの身体にいるのだから、『私』の身体は抜け殻になって、ベッドの下にいる筈なのだ。なのに、どうして……。私はまた、頭の上がクエスチョンマークでいっぱいになった。そんな私を見て、『私』はクスクスと笑う。

「他人の身体に憑依できるのは、亜紀ちゃんだけじゃないんですよ?」

『私』は笑いながらそう言った。他人に憑依できるのは、私だけじゃない? それってつまり、どういうこと!? 私は少し混乱しながら『私』を見つめた。

「う〜ん、亜紀ちゃんの歳では、まだ知らなくても仕方が無いかな。私達のような憑依者はそんなに多くないし……」

憑依者? なんだろう憑依者って……。ひょっとして、私みたいに憑依できる人のことだろうか?

「私のこと、まだわかりませんか?」

「そ、そんなこと言われたって……」

「私はよーく覚えてますよ。亜紀ちゃんに頭突きをされたこと」

頭突き!? 最近、私が頭突きをした人は遥さんしかいない……。と、いうことはひょっとして! 私が驚いた顔をすると、『私』はニンマリと笑った。お兄ちゃんはまだ「何が起きたのかよくわからない」という顔をして、おろおろしていた。

「は、遥さん!」

私がそう叫ぶと遥さんである『私』がコクリと頷く。それに続いてお兄ちゃんが「え!? 広瀬さん!?」と素っ頓狂な声をあげた。どうやら遥さんにも私同様、他人に憑依できる能力があるようだ。だから、抜け殻になった『私』の身体に憑依できたのだろう。まさか、こんな身近に憑依できる人がいたなんて。運命というのはいつだって突然である。

「私が気絶している間に、私の身体を使ってこんなことをしていたなんて……。私、ベッドの下で目覚めた時に二人の喘ぎ声を聞いていて、少し嫉妬してしまいました……」

「ひ、広瀬さん。これは……」

「春樹さん、男の人の言い訳はみっともないですよ?」

遥さんはニッコリ微笑みながら、あんなことを言った。怒りながら言われるのならまだしも、笑顔で言われるのはちょっとキツイ……。

「私達はセックスをしない、という約束を言い出したのは春樹さんの方からでしたよね? 少しでも私に悪いことをしたと思っているのなら、あの約束を無かったことにしてくれませんか?」

「わ、わかった。無かったことにしよう……」

「あとひとつ。先ほどのお二人のセックスで、私の処女は奪われてしまいました。でも、私はロストバージンを体験したことがありません。だからこの亜紀ちゃんの身体で、私の処女を奪ってくれませんか? 私はそれで、先ほどのことを全て水に流します」

「ちょ、ちょっと待ってよ遥さん! 貴女、なんてことを言い出すんですか!?」

「亜紀ちゃん。私の身体を勝手に使って、春樹さんとセックスしたのはどこのどなたかしら? それとも亜紀ちゃんが私の処女膜を治してくれるの?」

遥さんの目が「S・E・X! S・E・X!」というシュプレヒコールをしているかのように見える。うぅ……。そこを突かれると私はグゥの音もでないよ……。あっ、でも待てよ? 確かお兄ちゃんとの初体験の時は、全く痛くなかったし、血も出なかった。だからあの時は「遥さんは非処女」なんだと結論付けたんだった。

「でも待って! さっき遥さんの身体でお兄ちゃんとセックスしたけど、血も出なかったし、全然痛くなかったよ!? それでも遥さんは自分が処女だと言い張るつもりですか!?」

「あのね、亜紀ちゃん。一般的には『初体験は痛い』ということになっているけど、世の中には処女でも痛くないし、出血もしない人だっているのよ? 私、生理の時はナプキンじゃなくて、タンポンを使ってるから、その所為じゃないかしら?」

確かにタンポンは膣に挿入するタイプの生理用品の為、日頃から使っていると異物感に慣れてくるし、処女膜も柔軟になるという。でも、これを認めてしまうと本当の私の処女は、遥さんに奪われてしまうし、なによりも私のお兄ちゃんと遥さんがセックスをしてしまう……。そんなこと、私の目が黒いうちには絶対に認めないよっ!

「まぁ、亜紀ちゃんや春樹さんが拒否しても、私が亜紀ちゃんと同じ手を使えば、いとも簡単に実現できそうですけどね……」

「な、なんですって!? 私達を脅すつもり!?」

「目には目を、歯には歯を、です♪」

「亜紀……。オレ達の負けだ。降参しよう……」

「うぅ……。うぅ〜〜っ」

私は悔しくて、泣きながら歯軋りをした。でもまぁ、最初に悪いことをしたのはこの私なんだし、同じ目に遭うのは仕方の無いことなのかもしれない……。そう思った私は不承不承、首を縦に振った。

「約束しましたね。二人とも。私の処女を奪った責任、とってもらいますからね」

遥さんはそう言って、不敵に笑った。

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