とらぶる☆とらんすふぁ 第一話

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私の名前は橘亜紀(たちばなあき)。私には不思議な能力がある。
他人の身体に憑依して、操ることが出来る能力だ。どうしてこんな能力が身に付いたのかはよくわからないが、物心がついた頃には他人に憑依して遊んでいた記憶がある。
憑依する相手は眠っている人か、気絶している人か、死んでいる人だけ。意識のある人間に憑依することは出来ない。そして憑依している間、私の身体は抜け殻になって、まるで死体みたいな顔色になるから、人目のつかない場所へ隠さなければならない。もし、誰かに見つかったりしたら、救急車を呼ばれたりして大変なことになるからだ。
私も自分にこんな能力があるということに気付いた時は驚いたし、他人には出来ないことなのだとわかった時は、自分だけ変な人間なんだと思って、ショックを受けたりもした。お母さんに相談した時は「そんな漫画みたいなこと、あるワケないでしょ」と言われて、取り合ってもらえなかった。とても寂しくて心細かった。そんな時に私の話に耳を傾けてくれたのが、橘春樹(たちばなはるき)。私のお兄ちゃんである。
お兄ちゃんは私よりも二つ年上で、とってもカッコよくて、やさしくて、スポーツも出来て、有名な国立大学に通っちゃうほど頭も良い。パーフェクトお兄ちゃん。私の秘密を知っている唯一の人。
そのお兄ちゃんが私の相談を聞いてくれて、こんな変な能力を持っている女の子でも普通に接してくれて、「亜紀にどんな能力があっても、亜紀はオレのたった一人の妹だよ」と言ってくれたから、今でも私は生きている。もしあの時、お兄ちゃんも私の話を聞いてくれなかったら、私は今頃自殺していたかもしれない……。

そんなワケでお兄ちゃんは私の命の恩人であり、私のもっとも信頼出来る男の人。ハッキリ言って、私はお兄ちゃんのことが大好き。好き好き大好きSSDである。結婚出来るものなら結婚したい。そして、毎日のようにベタベタしたり、甘えてみたり、時にはワガママも言ってみたいし、その……キスとか、それ以上のことも……。でも、私は妹。お兄ちゃんとは兄妹なのだ。この国では三親等内での結婚は認められていない。まさにファッキンジャップである。この法律を知った時ほど憤慨したことはない。いや、あの時も相当怒ったっけ……。それはお兄ちゃんが彼女を家に連れてきた日のことだった。

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